煙草を吸ってはいけない馬鹿

アパートの出入り口の所の、道路との境目には、黒い背の低い網のフェンスがある。

そこに、いつからか洗濯ばさみで空き缶が取り付けられるようになった。

日に日に、缶の中には煙草の吸殻が増えていく。

雨が降ると、そこに水がたまって、茶色い液体があふれそうになっていたりする。

 

その少し前には、建物に沿うようにして植えられている、こんもりとしたイヌツゲかなにかの生垣に、ビニール袋がこれもまた洗濯ばさみでとめられていた。

万が一、燃え移ったらということを考えないらしい。

 

そちらは誰かに止められたのか、自分で改めたのかは知らないが、いつからか空き缶のスタイルに変わっていた。

 

犯人はわかっていて、下の階に住んでいる若い男。

仕事が終わって帰ってくると、ときどき、作業着を着たままアパートの出入り口の段差に腰かけて、煙草を吸いながらスマホをいじっていることがある。

挨拶をすると、わりとフランクな感じで返ってくる。

 

アパートに入るためにはどうしてもその横を通ることになるので、煙草臭い時点でもうけっこう腹立たしい。

 

夜だとよくわからないのだけれど、昼間に家から出るときなんかははっきり見える。

空き缶がかかっているフェンスの道路側にはふたのついていない枯れた側溝があって、そこに、吸殻が幾つも落ちている。

もはや落ちている、というレベルではなくって、たまったそれが意図的にぶちまけられている、というような。

 

今日、快晴のもとでその光景を目にした。

怒りが沸いてきた。

実害がなきゃいいやと思っていたけれど、もう十分不快感を味わわされているし、よく考えれば副流煙だって。

 

アパートには他に、ふた家族が住んでいる。

どちらにも幼い子どもがいる。

どう思っているんだろう?

汚いし、不愉快だけど、余計なトラブルを招くくらいなら、見て見ぬふりをしよう、という感じなのだろうか。

 

直接何かを言ったりすることに意味はなさそう(それがすんなりと通じるのならああいう行動はしない)なので、管理会社に連絡を入れることにした。

管理会社の電話番号を調べる、

電話をかける、

説明をする、

とかそういう、しなくてもいいはずのことをしなくてはいけない面倒くささにも腹が立ってくる。

ひとの時間を奪うということの罪を、きっとあの若い男は理解できない。

 

全くの他人に対して、久しぶりに腹が立った。

その住人に対しては、夏ごろにもものすごく腹が立つことがあって、そっちは一応片付いたというかむりやり片付けたのでもういいのだが。

 

いったい、どういう生活を送っているのか、逆に気になってきた。